成人発達理論について

Adult Developmental Theory

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自ずから生成される深化と変容

この一見不都合なフィードバックは、何のどんな誘いなのだろうか?

 私たちは、現場の日常的なデキゴトと共存する生成的な触媒(関わり)を大切にしています。「観察、実践、省察」を繰り返し、生き生きとしたデキゴトと共存することでご縁を活かし、多彩な学習プロセスと進歩・変容プロセスに寄り添います。その道のりは非日常と日常の生成的架橋であり、統合です。
 

"The art of progress is to preserve order amid change, and to preserve change amid order. " Alfred North Whitehead
「進歩の技術とは、変化の只中で秩序を保ち、秩序の只中で変化を保つことである。」アルフレッド・ノース・ホワイトヘッド

 

“A theory is primarily a form on insight, i.e. a way of looking at the world and not a form of knowledge of how the world is.” David Boehm
「理論とは、洞察のひとつの様式である。この世界を見るひとつの方法であって、世界の在り方の知識をまとめたものではない。」デヴィッド・ボーム

 識育コーチング®︎では、枠組み自体の深化を伴う変容に関しては、成人発達理論を、システムを俯瞰的に捉える際には、インテグラル理論を援用します。個の内在(内面性)を観察する際には、独自に開発しているモデルを用います。

「秩序と最適化」や「渾沌とひらき」は、「観察と実践と省察」をとおして自ずから生成される深化・変容であって、本来は理論や概念によって人為的にデザインするものではない。という自己批判的な態度とともに、この一見不都合なフィードバックは、何のどんな誘いなのだろうか?という問いを抱きながら、不完全ながらもその瞬間の直観を基軸として、授かりつづけるご縁に関わります。

成人発達理論とは?

 
 

世界が「複雑になりすぎている」と思うとき、人は世界の複雑性に直面しているだけでなく、世界の複雑性と現時点での自分の能力の複雑性(つまり能力のレベル)の不釣り合いにも直面している。”

 
 ハーバード大学教育大学院教授ロバート・キーガン博士のこの言葉は、生涯にわたり発達しつづける大人の知性の存在を端的に表現しています。彼は、その大人の知性を以下の三つの段階として定義しています。
 

大人の知性の三つの段階──環境順応型知性(ソーシャライズド・マインド)、自己主導型知性(セルフオーサリング・マインド)、自己変容型知性(セルフトランスフォーミング・マインド)──は、世界の理解の仕方と、世界で行動する際の基本姿勢がまるで違う。

 
 私たちの大人の知性は、三つの発達段階(Level)を経て、より複雑性を帯びながら、直面するリアリティと本質的に共存することができるようになっていくのです。私たちがリアリティの本質を探究し尽くしていく道のりは、私たち自身の知性が複雑性を帯びていく道のりともいえるでしょう。その文脈からすると「直面するリアリティそのもの」と「私たちの知性のレベル」との不釣り合いが、私たちに複雑性を感じさせているのであって、リアリティそのものは複雑でもなくただ在りのままなのです。
 
 この大人の知性の発達が生じる『意識構造』は潜在的な領域であるため、私たちは通常はそれを認識することができませんが、その『意識構造』の営為は、ロバート・キーガン博士の云う”世界の理解の仕方”、”世界で行動する際の基本姿勢”の活動要素として表出されます。
 
 ロバート・キーガン博士の成人発達理論(主体・客体理論)をさらに洗練させている発達心理学者オットー・ラスキー博士の理論モデル(構成主義的発達論のフレームワーク)を援用してみると、この二つの活動要素は以下のように表現することもできるでしょう。

大人の知性の二つの活動要素
(1)”世界の理解の仕方”:認知構造的発達(レンズ:直面するリアリティの可能性に関する洞察力)
(2)”世界で行動する際の基本姿勢”:社会的感情的発達(器:存在意義や実存に対する問い)

 この二つの活動要素は、VUCAな時代背景のなかで持続可能性を探究するリーダーシップの意思決定や実践や学習においてとても要素となるため、近年日本でも注目を集めています。この知性の発達には、これまでの知識学習やスキルトレーニングのように短期間で習得できるものではなく10年単位の期間を要すること、発達に伴う葛藤やゆらぎに伴う心理的負担や一時的なパフォーマンスの低下の可能性もあることから、倫理的な配慮と、総合的で継続的な取り組みが求められます。
 


もうひとつの成人発達理論

発達のウェブは、少なくとも以下の三つの重要な性質をもっていると考えられる。
(1)発達は、複雑で多様なレベルの範囲で起こる。
(2)発達の経路は、複合的な脈絡やネットワークのつながりを通じてダイナミックに変化する。
(3)多方向に拡張する構造が発達の形である。
発達は、ダイナミック。スキル理論(Fitsher &Bidell,1998)では、人の発達の豊かな流動性を捉える構造化されたウェブとして分析されている。ダイナミクスとにとって重要なことは、行為(activity)は何らかの脈絡で起こるということでである。すなわち、人は空の空間で行為するわけではない。社会的、情緒的、技術的、そして物理的挑戦を伴う、多様でダイナミックな世界に順応して成長するということは、その場での直感(即時性)に行動が即応していなければならないことを意味する。活力があり、かつ的確であるために、これらの脈絡は無視することができない。ウェブは、多様な脈絡におけるスキルのネットワークの複雑さを捉えている。

 

 ハーバード大学教育大学院教授カート・フィッシャーの「ダイナミック・スキル理論」です。個別具体的な「スキル(具体的なモノゴトを実現する能力とその能力自体を言語を用いて操作する知性)」には発達段階(レベル)があり、そのレベルは環境・文化・身体との相互作用によって常に変動している。そして、それらのスキルの発達段階を普遍的に測るモノサシが存在することを提唱したものです。

カート・フィッシャーの貢献の1つは、発達科学と複雑性科学を繋いだことです。つまり、フィッシャーは、ピアジェ以降の発達心理学が抱えていた研究手法上の問題を解決するために、積極的に複雑性科学の知見を取り入れ始めたのです。その結果として、能力の複雑な成長プロセスとメカニズムを説明する「ダイナミックスキル理論」が誕生することになりました。

 

「ダイナミック・スキル理論」は、これまでの発達のメタファー(喩え)を、”梯子や階段”から”網の目(ウェブ)”に進化させ、日常レベルで実践可能性を拡大してくれました。つまり、日常的なあらゆるスキル発揮に成人発達理論を実践することが可能になったのです。
 


識育コーチングで実践的に援用する3つ成人発達理論の要素

 識育コーチングでは、ロバート・キーガンの「主体・客体理論」、オットー・ラスキーの「構成主義的発達論のフレームワーク」、カート・フィッシャーの「ダイナミックスキル理論」の理論を組み合わせ、主に三つの知性が生涯をとおして進化(発達)していくメカニズムとプロセスに寄り添います。

(1)「直面するリアリティの状況を認知的に定義する知性の枠組み」(認知的発達)
(2)「その状況に社会的意味を付与する知性の枠組み」(社会的感情的発達)
(3)「言語を操作する枠組み」(能力を言葉を用いて操作する知性)


成人発達理論の可能性と限界

 成人発達理論には、日本で知られるだけでも、上述の三者の他にも、スザンヌ・クック=グロイターの「自我発達理論(Ego Development Theory)」、ビル・トーバートの「アクション・ロジック」などがあります。
 

日本で普及しつつある発達心理学の知見は、キーガン、クック=グロイター、トーバートの3名の発達理論であり、大きなくくりで言えば、彼らの理論は人間の器の成長に着目したものである、ということです。

 

 理想の状態を表した『真善美』(認識上の「真」と、倫理上の「善」と、審美上の「美」)という枠組みで、成人発達理論を俯瞰してみると、「真」と「善」は扱っているものの、「美」は直接的に扱っていないようです。
 成人発達理論の歴史を振り返ると、ロバート・キーガンやオットー・ラスキーやカート・フィッシャーの源流には、「道徳性発達理論」のローレンス・コールバーグ、「
発生的認識論」のジャン・ピアジェ等の存在があります。成人発達理論が、道徳的・倫理的・社会的な「善」、科学的・客観的な「真」に立脚している背景があるのでしょう。
 
 私たちは、数多くのプロアーティスト支援を通じて、この成人発達理論に感銘を受けると同時に、違和感も抱いてきました。これまでの一部の成功者の自論や精神論を超えた普遍的な意識の進化のプロセスとメカニズムを実証研究を通じて明らかにした優れた理論である一方で、美意識や創造性やイデアを扱っていない印象です。プロアーティストの創造的活動の本質は、科学性(真)でも社会性(善)でもなく、その対極とでも言えそうな個の意識を超えた(トランスパーソナルな)感性と霊性であり、観られる者としてではなく、観る者としてのプレゼンス(存在感)なのです。彼らは、まるで魂を体現するために生命と共存しています。
 私たちは、成人発達理論を、単に正しく(真)優れた(善)人たちを量産するためにではなく、「真」と「善」とを尽くしつつ、個の意識を超えた感性と霊性を体現しようとする人たちに寄り添う存在として歩んでまいります。
 その実践は、「内在(観られる者)を尽くし、超越(観る者)とゆらぐ」道のりです。
 

コーチングとは?

 

Things do not change ; we change.
(状況は変わらない。私たちが変わるのです)
 Henry Daavid Thoeau

 

コーチングは、クライアントの問題解決や、意思決定、あるいは目標達成を助けるだけでなく、自律的に学習する能力を育て、個人の成長を促すものです。クライアントが学習者になり、新しい視点で世界を見るようにならない限り、常に、親や教師、上司、コーチといった他人からのアドバイスに頼ることになります。クライアントは、問題の一般化ができるようになる必要があります。目の前にある問題を解決するだけでなく、最初に問題をもたらした自分の思考を批判的に見ることが必要です。

 
 私たちは、目標達成に重心をおいた「パフォーマンスコーチング」より、そのヒトの秘めた可能性発揮に重心をおいた「ポテンシャルコーチング」を大切にしています。上述の成人発達理論を援用したコーチングも後者に該当しますが、以下の記述にあるように、コーチは自分自身の発達段階以上のクライアントの発達を支援できないという限界があります。これはオットー・ラスキーの研究によって明らかにされています。
 

コーチが到達した段階によって、クライアントをどこまで支援できるかが決まるのです。これは最も重要なポイントです。すべての人は自己の発達段階に支配されています。コーチングの重要な要素は、クライアントの手助けをすることです。クライアントが自分を支配するものと自分を同一視することを止め、それを把握する手助けを行います。また自分を支配するものを生活の中で具現化することを止め、それを省察する手助けも行います。コーチがこうした事柄を自分自身で省察できない限り、コーチはクライアントに問題点を指摘できません。コーチ自身にとらわれているものがあるなら、コーチはそこからクライアントを解放することはできません。そのため、コーチが自分より上の段階に進もうとしているクライアントを手助けすることはほぼ不可能です。

 
 コーチングを実施する単位としては、以下の三つを扱います。ROI(投資効果)やその機能性などを考慮し、最も適正な単位を総合的に提案します。(お話を伺ってみると、コーチングより、ティーチングやトレーニング、カウンセリングやセラピーが適してことも少なくありません。その際にはその旨ご提案差し上げます)
(1)セルフコーチング
(2)1on1コーチング
(3)チームコーチング

アドバイザリーボード

アドバイザリーボードは、社外の有識者から各種専門領域のご意見を賜ることを目的として設置するものです。高品質で実証的なコーチングやコンサルティングをご提供できるよう、健全な事業運営に生かしてまいります。
 
ボードメンバー (五十音順、敬称略)
 

 
 

 
 

加藤洋平氏 


発達理論の学び舎主宰 「知性発達理論・知性発達測定」を専門領域として国内外でご活躍の加藤洋平さんをボードメンバーとしてお迎えしました。 

略歴 

東京都御茶ノ水生まれ。小学校から高校まで山口県光市で過ごす。 

最新の成人発達支援の方法論によって、企業経営者、次世代リーダーの人財育成を支援する人財開発コンサルタント。知性発達科学者として成人発達に関する学術的な探究にも従事(2016年8月より、オランダのフローニンゲン大学に所属)。
 
一橋大学商学部経営学科卒業後、デロイト・トーマツにて国際税務コンサルタントの仕事に従事。退職後、米国ジョン・エフ・ケネディ大学統合心理学科修士号を取得。ハーバード大学にて成人教育の権威ロバート・キーガンおよびリサ・レイヒーの下で、自己変革・組織変革モデルである「Immunity-to-Change」のファシリテーター・プログラムを修了。成人発達理論の大家オットー・ラスキー博士に師事し、発達測定の専門家としての資格を取得。Integral Coaching Canada Incにて、最新の発達理論に基づいたプロフェッショナル・コーチングの資格を取得。

人財開発コンサルタントとして大手製造業の新事業開発プロジェクトに参画し、メンバーをマインド面からサポートするため、ラーニングセッションや成長支援コーチングを提供。知性発達科学の知見に基づいて、日本企業の自己変革・組織変革による事業成長を支援している。

出版書籍

翻訳書(2015年1月出版) 

活動実績

  • 麹町アカデミアでの発達理論ゼミナールの提供
  • 大手上場会社への発達理論ワークショップの実施
  • 大手上場会社への自己変革ツール「ITCマップ」作成ワークショップの実施
  • 大手上場会社への人材育成コンサルティングの実施